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SIGNAL 政治
No.0027

イギリスがNVIDIAと組んでAI自給国家を本気で目指し始めた

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出典:NVIDIA Blog

エネルギー安全保障という概念が生まれたのは、1970年代の石油危機だった。それまで「買えば済む」と思われていた資源が、一夜にして外交カードに変わった瞬間、各国は自国のエネルギー基盤を持つことの意味を理解した。以来、原子力・再生可能エネルギー・備蓄政策など、国家が莫大なコストをかけて「供給を他国に握られないようにする」動きが続いてきた。

今、同じ問いがAIの文脈で浮上している。

AIの計算基盤、学習データ、モデル開発能力。これらを自国に持たない国は、AIを活用できる間はよいが、アクセスを止められた瞬間に何もできなくなる。エネルギーで学んだ教訓を、テクノロジーの領域でも繰り返すのか。その問いに対して、欧米の政府は明確に「繰り返さない」という方向に動いている。

イギリスもその一国だ。2024年のロンドン・テック・ウィークで、NVIDIAのジェンスン・フアンとキア・スターマー首相が同じ壇上に立ち、「UKはAIテイカーではなく、AIメイカーになる」と宣言した。使う側から作る側へ。宣言としては鮮明だったが、問題はその後だ。

国家としての意志表明と、実際のインフラ・産業・人材の整備は別の話だ。どれだけ強い言葉を並べても、計算資源が国外にあり、モデル開発者が育っておらず、スタートアップに資金が回らなければ「AIメイカー」には程遠い。宣言の翌年に何が起きたかが、本当の試験になる。

2025年のロンドン・テック・ウィークで、イギリスはその答えを出しにきた。

NVIDIAとパートナー各社が示したのは、インフラ・スタートアップ支援・人材育成という三つの領域での具体的な進捗だ。国産スーパーコンピュータの稼働、国内AIファンドによるスタートアップへの実弾投資、20万人超のNVIDIAデベロッパープログラム登録者。数字の規模だけを見れば、1年間でかなりの距離を走ったことがわかる。

ここで重要なのは、これが「NVIDIAへの依存」と「AIの自立」という矛盾を内包している点だ。特定のチップメーカーと国家レベルで組むことが、どこまで「自給」と言えるのか。この問いは簡単には解消されない。それでも、何も持たない状態から始めるよりは、パートナーシップを通じて人材・インフラ・エコシステムを国内に蓄積していくほうが現実的だという判断が、今のイギリスの立場だ。

エネルギー安全保障の歴史が示してきたのは、「完全な自立」を達成した国はほとんどなく、ほとんどの国が「依存の構造を管理する」ことに注力してきたという事実だ。AIも同じ道をたどるなら、今イギリスが取っている戦略は、その最初の一手として読み解くことができる。


3行まとめ

  • 2024年のロンドン・テック・ウィークで、ジェンスン・フアンとキア・スターマー首相が「UKはAIメイカーになる」と宣言した
  • イギリスはNVIDIAと連携し、国内のAIインフラ整備・スタートアップ支援・人材育成を進めており、NVIDIAデベロッパープログラムのイギリス登録者数は20万人以上に達している
  • 2025年のロンドン・テック・ウィークで、ソブリンAIファンド受給企業を含む各パートナー企業が取り組みの進捗を発表した

※以下は詳細

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ソブリンAIとは何か

「ソブリンAI」とは、国家がAIの計算インフラ・データ・モデルを自国でコントロールできる状態を指す。NVIDIAがこの概念を各国政府に訴求している文脈で使われる言葉で、イギリスはその代表事例のひとつになっている。

外部に依存せず、AI開発・運用を国内で完結できる体制を整えることが目標だ。


インフラ・スタートアップ・人材の三本柱

今年のロンドン・テック・ウィークでNVIDIAとパートナー各社が示したのは、三つの領域での進捗だ。

一つ目はインフラ整備。過去1年で、NVIDIAのAIインフラ展開計画を持つAIクラウドプロバイダーの数はイギリス国内で2倍になった。NebiusはNVIDIA AIインフラの新たな展開を発表し、CoreWeaveはイギリス政府のAI成長ゾーン内で建設を進めている。BTとNscaleはイギリス国内の複数拠点にソブリンAIデータセンターを構築する計画を明らかにした。

二つ目はスタートアップ支援。イギリス政府のソブリンAIファンドが国内企業への投資を実施しており、受給企業にはNVIDIA Inceptionスタートアップが含まれる。NVIDIAは主要なベンチャーキャピタルと連携しながらイギリスのスタートアップエコシステムへの大規模投資を進め、ロンドン、オックスフォード、ケンブリッジ、マンチェスターなどの主要拠点に資本とAIインフラをもたらしている。過去1年でNVIDIA InceptionプログラムへのUK加入企業数は50%増加した。

三つ目は人材育成。NVIDIAはイギリスの科学・イノベーション・技術省と6GおよびAIスキルに関する連携を進めており、6Gのテストベッドが4つのイギリスの大学に設置された。NVIDIA DLIのコースはイギリス全土の30以上の大学で提供されており、QAのAIアプレンティスシッププログラムの一環としても活用されている。NVIDIAデベロッパープログラムのイギリス登録者数は20万人以上に達している。


ソブリンAIファンドとスタートアップの取り組み

イギリス国内最大のスーパーコンピュータであるIsambard-AIは、5,400基のNVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipsで構成されており、完全にゼロカーボン電力で稼働している。ソブリンAIファンドはこの計算基盤を活用して国内企業の成長を支援している。

ファンドの初期受給企業のひとつであるCosineは、金融サービス・重要インフラ・国家安全保障などの高規制産業向けにエンドツーエンドのソブリンAIコーディングプラットフォームを構築している。共同創業者兼CEOのAlistair Pullenは「Isambardへのアクセスがこのプロジェクトを可能にしている」と述べている。

Cursiveは、実世界のデータから継続的に学習する自己改善型AIシステムを開発している。NVIDIA Megatron-LMフレームワークを大規模分散トレーニングに採用しており、共同創業者兼CEOのTalfan Evansは「ソブリンAIファンドは単なる処理能力以上のもの、イギリスにおけるAI投資への意思表明だ」と述べている。

Doublewordはイギリス初の専門推論ラボとして、AIスタックの各層を最適化している。Isambard上での初期結果では、モデルのコールドスタートが大幅に高速化し、KVキャッシュ圧縮でも大きな改善を達成。他の主要推論プロバイダーと比較してコストを大幅に削減した。共同創業者兼CEOのMeryem Arikは「ソブリンAIは推論レイヤーで最も大きなインパクトをもたらす」と述べている。

Prima Menteはアルツハイマー病・パーキンソン病・ALSの新たなバイオマーカー・サブタイプ・創薬ターゲットを特定するための生物学的基盤モデルを構築している。NVIDIA Blackwell GPUを活用してモデルトレーニングを大幅に高速化しており、NVIDIA Parabricksによるゲノムデータ処理やNVIDIA Transformer Engineによるモデル最適化も採用している。


エンタープライズAIの本番導入

企業レベルでもAIはパイロット段階から本番稼働へと移行しつつある。ApianはNHS(英国国民保健サービス)の2つの病院のデジタルツインを構築しており、自律デバイス・地上ロボット・コンピュータビジョン・ロボティクスシミュレーションを組み合わせている。Deliverance AIは、規制産業の企業が自社環境内でAIエージェントを運用・管理・スケールできるソリューションを単一のコントロールプレーンで提供している。Glass FuturesはAI駆動のガラス溶融炉デジタルツインを本番導入している。

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